文在寅の夢 ~トランプ、金正恩両氏会談お膳立て~
韓国の大統領選挙に挑むと文在寅氏が決意したのは9年前だ。朝鮮半島の分断後、初の南北首脳会談を実現させ、ノーベル平和賞を受賞した金大中元大統領が文氏に北朝鮮との和平実現に向けた取り組みを続けるよう促した。文氏がお手本とする政治家である金大中氏は当時、病を患っており、程なく亡くなった。
金大中氏らが進めた北朝鮮との融和を探る「太陽政策」の中核的な後継者であることを自認していた文氏の耳には、元大統領の懇願が響いた。2017年5月の大統領選前、文氏は「決定的瞬間」がまさにその時だったと記者団に語った。金大中氏はあたかも「遺言」のように話したという。
大統領就任から1年を迎えようとする文氏は今、前任者がなし得なかった飛躍的な新たな局面を切り開く最前線に立つ。
1950年に始まった朝鮮戦争は53年に休戦協定に至ったが、正式にはまだ終わっていない。2000年、当時の韓国大統領、金大中氏は平壌で金正日総書記と初の南北首脳会談に臨んだ。だが北朝鮮はその後、核実験を行い、金正恩体制の下で推計60発の核爆弾を保有。核弾頭を搭載し米国本土のどの都市にも到達可能なミサイルの開発を進めている。
文氏は盧武鉉政権で大統領秘書室長を務めた。前回の南北首脳会談は07年に盧大統領と北朝鮮の金正日総書記との間で平壌で行われたが、27日の南北首脳会談は1953年に休戦協定が結ばれた軍事境界線のある板門店で初めて開催される。北朝鮮のトップが陸路で韓国側の施設に向かうのも史上初だ。
北朝鮮出身の両親を持つ文氏(65)は、今回の南北会談のために人生を賭けてきたといっても過言ではない。米ウェスタンケンタッキー大学のティモシー・リッチ准教授は「いかなる交渉であれ、その含むところを文氏が認識しているのは確実だ。話し合うことのできる場の準備をする『フィクサー』としての役割を潜在的に果たし得る」と述べる。
南北首脳会談とそれに続く米朝首脳会談が平和への扉を開く可能性がある一方で、失敗すればアジアの大半の地域にすぐに影響が及び得る破壊的な戦争のリスクが浮上する。