【日本代表、ガーナ戦|戦評】初陣で犯した2つのミス。一方で唯一の希望となったのは…
[キリンチャレンジカップ2018]日本 0-2 ガーナ/5月30日/日産スタジアム
配布されたメンバーリストを見ると、日本のそれが26人でびっちりと埋まっているのに対し、ガーナは17名。事情はどうあれ、「舐められたものだな」と勝手に思った。
しかし、そんなガーナに対して日本は苦戦。3-4-2-1システムでスタートさせたこの試合、立ち上がりこそ良いテンポでパスを繋ぎつつ、ダイナミックなサイドチェンジからチャンスを作るシーンもあったが、A・マドリ―所属のパーティーにFKを直接決められると、トーンダウンしていった。
この日、日本が犯したミスのひとつは先制点を献上したことだ。弱者が強者に勝つには先行して相手を焦らせる必要があるのに、逆に余裕を与えては苦しい戦いになって当然だ。
もうひとつのミスが、前半に限ればハイクロスを多用した点だ。実際、ウイングバックの原口と長友がゴール前に送っていたクロスはことごとく跳ね返されていた印象がある。そういう攻撃をするなら、磐田の川又、C大阪の杉本、札幌の都倉あたり(いずれも今回招集されていないが)を最前線に置くべきだった。高さがあまりないのに高さで勝負をしようとしていたところに疑問を感じた。
ガーナからしたら、サイドを突破されてもゴール前を固めておけば大丈夫──。そんなスタンスだったかもしれない。実際、前半のガーナは横の揺さぶりに対してほとんど崩れなかった。前半、日本の攻撃に怖さがなかったのは、“ウイングバックの突破頼み”というところに原因があったのかもしれない。
そんな日本は、前半を終えた時点でガーナのペースに呑まれそうになっていた。そして致命傷となったのが、51分のPKでの失点だ。あっさりとした守備で決定的なピンチを招くところは、ハリルホジッチ時代となんら変わらない。「急激な変化」を期待した西野監督も試合後はどこか浮かない表情だった。
トータル的に見て西野ジャパンの初陣で試した3-4-2-1システムはやや不発だった。なかでも厳しかったのが、ボランチの一角を担った山口。3月のウクライナ戦もそうだったが、ボールの取りどころが定まらず、攻撃の局面ではミスが目立った。試合前ではボランチの一番手と目された山口が乱調だったのは、西野監督にとっても誤算だったはずだ。
結果も0-2、内容も乏しかったわけだが、だからといってポジティブな面がなかったわけではない。唯一と言っていい希望の光が柴崎だった。
59分に山口に代わりボランチに入ると、いきなりミドルをかます。「威嚇じゃないですけど、個人としての入り方としてああいう場面が巡ってきたので(シュートを選択した)」という柴崎は、そこからゲームメイクで魅せる。
62分、66分、87分と、逃げの横パスではなく攻めの縦パスで局面を動かし、いくつかチャンスを作りかけたそのチャレンジ精神は、今後に期待を抱かせるものだった。ウイングバックにボールを預けるだけでは正直、攻撃に怖さは出ない。相手の陣形を崩すには柴崎のように際どいパスを何度か打ち込む必要がある。そういう布石を打ってこそ、ウイングバックからのクロスも活きてくるのではないか。
縦パスとクロス、そのどちらかに偏るのではなく、上手く使い分けることがゴールへの近道だろう。
もっとも、3-4-2-1でのチャレンジは始まったばかり。違うシステムに変える可能性もあるが、いずれにしても──。西野監督が真の意味でチームをどうまとめるかは、ここからが勝負となる。
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)
スペイン首相、辞任拒否=政治混乱、市場揺さぶる
【パリ時事】与党が絡んだ汚職事件で追い詰められているスペインのラホイ首相は30日、国会審議で野党から進退を問われ「国民から託された任務を全うする」と答弁、辞任を拒否した。
野党提出の不信任案が6月1日に採決される見通しで、イタリアと並びスペイン政治の流動化が世界の市場を一段と揺さぶる恐れがある。
スペインの裁判所は今月24日、与党国民党の元幹部ら29人に汚職の罪で有罪判決を言い渡した。元幹部らは、スペインが不動産バブルに沸いた1999~2005年、公共事業受注の見返りに企業から現金を受け取っていた。
最大野党の社会労働党は有罪判決を踏まえ、ラホイ氏の不信任案可決を目指すが、下院で過半数の票が必要で社会労働党だけでは足りない。「ラホイ後」をにらみ、野党勢が不信任案採決を前に次期首相候補を一本化できるかが今後の焦点となる。
トランプ劇場 米朝会談は100%ある?
米朝会談は100%ある!トランプの芝居に惑わされるな
今回のテーマは、「トランプ氏の芝居」です。ドナルド・トランプ米大統領は24日、6月12日にシンガポールで開催予定の米朝首脳会談「中止」を告げる金正恩北朝鮮労働党委員長宛ての書簡を公表しました。ところが、公表から24時間も経たないうちに「予定通りに会談開催の可能性がある」とホワイトハウスの記者団に語ったのです。自身のツイッターにも「もし会談が行われるならば、6月12日にシンガポールで開催されるだろう。必要であれば延期する」と書き込みました。
ではトランプ大統領は、書簡を何の目的で使ったのでしょうか。なぜ、また突然中止の発表から開催の示唆となったのでしょうか。本稿ではそこを明らかにします。
書簡の構成とポイント
トランプ大統領の書簡は、3段落から構成されています。第1段落でトランプ氏は、北朝鮮の「凄まじい怒りとあからさまな敵意」を会談中止の理由に挙げ、責任はあくまでも北朝鮮側にあることを明確にしました。その背景には、北朝鮮がマイク・ペンス副大統領を「愚か者」「政治的まぬけ」と痛烈に非難したことがあるといわれています。
第1段落の終わりでトランプ大統領は、「あなた(金委員長)は核能力を誇示するが、我々の核能力は巨大で強力であり、北朝鮮に使用されないで済むように神に祈っている」と、金氏に対してツイッターではなく書簡で脅しのメッセージを送りました。トランプ氏は自分が強いリーダーであることを強調したのです。
トランプ大統領は、会談中止によって交渉の失敗者として認識されないように、強いリーダーのメッセージを支持者に送ったフシもあります。要するに、第1段落は責任の所在の明確化、軍事力の優位性の確認及び強いリーダーがポイントになっています。
一方第2段落では、「私はあなたとの間で素晴らしい対話がなされていると感じていた」「対話だけが重要だ」「いつかあなたと会えることを大変楽しみにしている」と述べています。そのうえで、北朝鮮に拘束されていた3人の韓国系米国人の解放に対して感謝の意を表しています。第2段落のポイントは、「会談開催の余地はまだ残っている」というトランプ氏の極めて重要なメッセージです。実際、開催の扉は完全に閉ざされていませんでした。
最後の第3段落で、トランプ大統領は「もしこの重要な会談について考えが変わったら、いつでも連絡をして欲しい」と金委員長に投げかけています。トランプ氏は、次は韓国の文在寅大統領のような仲介役を使ったり、中国の習近平国家主席に相談することなく、「自分でしっかり連絡してこいよ」と金氏に言いたいのです。米朝間の心理ゲームの形成が逆転し、米国が主導権を握りました。
さらに、第3段落でトランプ氏は「世界、特に北朝鮮は永続的な平和と繁栄と富を得るチャンスを失った」と指摘し、「この失われたチャンスは、歴史上、本当に悲しい瞬間だ」と述べて書簡を締めくくっています。ここは最大のポイントです。
「チャンス」とは北朝鮮に対する大規模な経済支援で、民間部門による電気などのインフラ整備及び農業支援が含まれています。経済重視を宣言した金氏にとって、これらの支援は非常に魅力的に映っているはずです。会談の日時と場所の決定後も、相変わらず強引な駆け引きを続ける北朝鮮に対して、「チャンスを逸した」「しまった!」と後悔させ、逆に北朝鮮への揺さぶりを強めた一文です。
ゲームチェンジ
トランプ大統領は会談中止を発表して、「ゲームチェンジ」を図りました。試合の流れを変えたのです。
金委員長は、米国が北朝鮮を軍事攻撃ができない環境を整えてきました。その一つが、先月パンムンジョム(板門店)で開催された南北会談です。そこで金氏は、世界に融和ムードをアピールしました。当然ですが、トランプ大統領がこれに水を差すような軍事行動をとれば、世界から批判を浴びます。
今月に入ると、金氏は電撃訪中をして中朝会談を行い、習主席との親密さを前面に出しました。これによってトランプ大統領は、北朝鮮に対して下手に手を出をせなくなったのです。さすがのトランプ氏も、予測不可能な行動に出る金氏に苦戦を強いられていました。
そもそもトランプ大統領には弱みがあります。政治日程です。
金氏の脳裏では、11月6日の中間選挙、2020年11月3日の米大統領選挙及び2021年1月20日の大統領就任演説を利用して、最大限の見返りを米国から引き出す戦略を練っているはずです。投票日が近づいても非核化が進まなければ、トランプ氏は焦り、譲歩をしてくる可能性が高まります。仮に再選すれば、トランプ氏は政権1期目の実績として就任演説の中で北朝鮮核・ミサイル問題を取り上げ、自分が世界に平和をもたらしたとアピールしたいのです。
それらに加えて金氏は、会談を利用して偉大なリーダーとして歴史に名を残し、ノーベル平和賞を受賞したいトランプ大統領の心理を読み、開催日の12日まで強引な駆け引きを続ける予定だったのしょう。心理戦において金氏がトランプ氏よりも優位に立っていました。
トランプ大統領がジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の前で、非核化を先に行い、その後で制裁緩和をする「リビア方式」を北朝鮮に適用しないと譲歩を示しても、2回目の訪中で自信を持った金委員長は米国に対する揺さぶりを止めませんでした。
北朝鮮にしてみれば、会談に強い興味を示していたトランプ氏がこのタイミングで中止を発表するとは想定外だったはずです。一言で言えば、北朝鮮は読み間違えたわけです。
揺さぶりの道具
会談中止の書簡を
送ったトランプ大統領は、北朝鮮が軟化した態度を示すと、一転して会談開催の可能性を示唆しました。やはりトランプ氏の本音は、歴史的会談の開催だったのです。
書簡を公表した翌日、米ABCニュースのホワイトハウス担当記者ジョナサン・カール氏の質問に対してトランプ大統領は、「みんなゲームを行っているんだよ。君なら分かっているだろ」と率直な回答をしました。トランプ氏は、金氏への書簡を北朝鮮に対する「揺さぶりの道具」として使用したのです。
書簡を送付して芝居を打ったわけです。トランプ大統領は会談を中止するつもりは毛頭ないのに、見せかけの振る舞いをしたのです。
トランプ氏の狙いは、ずばり的中しました。北朝鮮は米国に対する批判を止め、「トランプ大統領が、首脳会談実現のために努力してきたことを内心評価してきた」という談話を直ちに発表しました。26日に行った2度目の南北会談で、焦った金氏は米朝首脳会談実現の意思を仲介役の文氏に伝えました。結局、北朝鮮の本音も会談開催だったのです。
ゲームの勝敗を決めるカギとは
周知の通り、トランプ氏は米NBCテレビのリアリティショー「アプレンティス(徒弟)」の司会者を務めていました。リアリティショーでは、事前の台本がなく素人出演者が番組の中で予測不可能な言動をとります。司会者は、即座にそれに対応していかけなればなりません。
トランプ氏は、番組を通じて予測不可能な言動に対する対処法を学習したのでしょう。金氏の予測不可能な言動に対して、書簡を使って見事に対処し、形成逆転に成功しました。
トランプ氏は不確実性の高い状況の中で行われている金氏とのゲームを、一見楽しんでいるようにも見えます。ゲームの勝敗は、相手がとる予測不可能な言動に効果的に対処し、そのうえで自分が予測不可能な攻撃に出ることができるか否かです。言い換えれば、予測不可能な言動に対するディフェンスとオフェンスの双方の能力の高さが、米朝の交渉にける主導権争いを決定づけるということです。
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米国 イラン核合意離脱の深刻な影響 世界潮流を読む 岡崎研究所論評集 2018年5月22日
トランプ米大統領は、大統領選の時から一貫してイラン核合意に強く反対してきたが、5月8日、同合意より米国が離脱することを表明、対イラン制裁を再開する大統領令に署名した。
イラン核合意は、2015年に米国、英国、フランス、ロシア、中国、ドイツ(P5+1)とイランとの間で合意されたもので、おおよそ次のような内容である。イラン側は、濃縮ウランの貯蔵量・遠心分離機の数の削減、兵器級プルトニウム製造の禁止、査察の受け入れ・透明性強化などにより、合意の履行後、約10年にわたりブレイクアウト・タイム(核兵器1発を製造するのに必要な核物質を獲得するのに要する時間)を1年以上に保つ。ただし、10~15年後には制限が解除される(サンセット条項)。これに対し、P5+1側は、安保理決議に基づく制裁を解除、米EU等によるイランの核開発に対する独自制裁を停止・解除する。イラン核合意は、国連安保理決議2231が、これを国際合意として承認しており、正統性の高いものである。
トランプ大統領は、離脱に際しての演説でも述べているように、イラン核合意について、イランはテロ支援国家である、イラン核合意はイランの弾道ミサイル開発を止められない、サンセット条項は受け入れられない、などの点を厳しく非難し、イランの核開発を止められない、と断じている。
しかし、イランが核合意を順守していることについては、IAEA等も認めている。トランプ自身、議会に対して、これまで、イランによる不遵守はない、と報告してきた。確かにイラン核合意はトランプが言うように、イランのテロ支援、地域への悪影響、弾道ミサイル開発を阻止できていないが、イランの核保有という最悪の事態だけは回避させてきた。次善の策として、核開発の阻止という一点に絞ったからこそ、辛うじて合意できたというべきであろう。トランプの主張は、安保理決議の承認を得た国際合意からの離脱を正当化できるものではない。フランスのマクロン大統領、ドイツのメルケル首相は、直前に訪米して米国のイラン核合意への残留を求めていた。英仏独が共同で遺憾の意を表明したのは当然である。離脱は国際的約束よりも選挙公約を優先したということであり、米国の国家としての信用を失墜させるものである。
イランは欧州など外国企業からの投資を期待して、当面は米国を除く5か国との間で核合意の存続を協議するとしているが、一方でウラン濃縮の選択肢も留保している。イランには、米国が合意を離脱する以前から、外国の投資が期待したほど増えおらず、経済的利益に繋がっていないとの不満がある。米国の離脱、制裁再開は、イランに投資しようとする欧州や日本の企業も標的にする可能性を意味する。それにより制裁解除の効果がなくなれば、合意を支持してきたロウハニ大統領に打撃となり、イランが合意に残留する理由も薄れる。したがって、イランの核開発が再開されるリスクが高まることになる。イランのラリジャニ国会議長は、合意存続の協議がまとまらなかった場合は、核開発の再開により米国に対抗すると述べている。
イランが核開発を再開するようなことがあれば、中東で核開発のドミノが起こるリスクが高い。サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は既に、イランが原子爆弾を製造すればサウジも同様の措置により対抗すると明言しているし、トルコ、エジプトなどにも核開発が連鎖する可能性がある。中東のような不安定な地域で核開発が行われることは、核不拡散体制を根底から覆しかねない。米国のイラン核合意からの離脱の決定は、それほど深刻なことである。
米朝首脳会談中止の決定的原因を作った習近平の「勝算と誤算」
トランプ大統領は22日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との会談で、記者団を前にして、北朝鮮が一定の条件を満たさない限り、米朝首脳会談は「開かれない可能性がかなり高い」と語り、中止の可能性を強く示唆していた。
ペンス副大統領も米メディアとのインタビューで、「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がトランプ大統領を手玉にとれると思ったら、大間違いだ」と語り、会談中止の可能性について「疑いを差し挟む余地はない」と明言していた。
私はかねて首脳会談の中止、あるいは開かれたとしても、少なくとも最初の1回は米国が破談にする可能性を指摘してきた(たとえば、5月11日公開コラム、http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55612)。今回の決定は、会談を開く前から米国側が破談にした形である。
日本のメディアでは「大統領が事前に『大成功』と宣伝したのだから、メンツにかけて交渉をまとめるはずだ」とか「首脳会談を開くなら、成功させる以外にない」などという訳知り顔の解説がしきりに流れていた。まったくピンぼけだ。
そんな解説を語る人は、そもそもトランプ氏が前例に当てはまらない「型破りな大統領」であることを忘れている。加えて、自分自身が事態を前例踏襲でしか理解できない「ステレオタイプ」に陥っている、という自覚もない。
トランプ氏に妥協する意思がないのは、イランへの制裁強化にもにじんでいた。米国は先にイラン核合意からの離脱を表明したが、ポンペオ国務長官は5月21日、ウラン濃縮の完全禁止などを求めて、実現するまで「史上最強の制裁」を課す方針を表明した。
先のコラムで指摘したように、イラン核合意からの離脱は北朝鮮に対するけん制でもある。そこへ新たな制裁も表明したのは、正恩氏に「非核化しなければイランと同じ運命だぞ」と念押しした形だったのだ。
22日のトランプ発言で注目されたのは「中国が北朝鮮に対して、対米交渉では強腰で臨むようにそそのかしたのではないか」と示唆した点だ。大統領は2度目の中朝首脳会談が5月7、8の両日、大連で開かれた後、正恩氏の態度が「少し変わった」と語った。
トランプ氏の分析が正しいとすれば、なぜ、中国の習近平国家主席は正恩氏に強硬姿勢を促したのだろうか。容易に想像できるのは、まず米朝会談が難航すればするほど、中国の存在感と役割が高まるからだ。それは中国の影響力拡大につながる。
正恩氏が習氏を頼りにしていたのは、1カ月余りで2度も中朝首脳会談を開いた事実によって証明されている。正恩氏に同行した妹の金与正(キム・ヨジョン)氏は、習氏に対して深々と最敬礼のお辞儀をして握手した。誇らしげに顔を上げ続けていた文大統領との握手のときとは対照的だ。
トランプ氏は、中国が一部の国境を開いて中朝貿易を拡大している点も「気に入らない」と述べていた。中国は北朝鮮にアメ玉を与えて、手なずけようとしていたように見える。中国はキープレーヤーの1人として、米朝交渉に割って入ろうとしていた。
トランプを翻弄した習近平
中国には、別の思惑もあったかもしれない。米国との貿易戦争を有利に運ぶ狙いである。
トランプ政権は3月22日、知的財産権の侵害を理由に総額500億ドル規模の対中関税引き上げ方針を決めた。それとは別に、中国産の鉄鋼とアルミニウムにも高関税を課した。すると中国は4月2日、米国産の豚肉やワインなどに最大25%の報復関税を上乗せして対抗した。
本格的な米中貿易戦争に突入するかと思われたが、米国のムニューシン財務長官は米中通商協議後の5月21日、テレビで対中関税引き上げを保留する考えを表明した。すると、中国も一転して国営メディアが輸入拡大を宣伝し始め、貿易戦争は一時休戦になった。
一連の動きは米朝交渉に濃い影を落としている。もう一度、日付を確認しよう。3月22日に米国が対中関税引き上げ方針を発表した後、2度目の中朝首脳会談が5月7、8両日に開かれた。その後、北朝鮮は強硬姿勢に転換し、同21日に米国が対中関税引き上げを棚上げした。
つまり、中国は北朝鮮に強硬姿勢を促して、米中貿易戦争を有利に展開しようとした可能性が高い。自分が強硬姿勢をそそのかす一方で「強気になった北朝鮮を制御したいなら、我々とケンカするのは得策ではないぞ」というサインを米国に送ったのだ。
米国は結局、中国との貿易戦争を棚上げせざるを得なくなった。北朝鮮との交渉で中国を完全な敵に回さないためだ。トランプ氏が22日の会見で、習氏を「グローバルクラスのポーカー・プレーヤー」と評価したのは、そういう事情からだろう。トランプ氏は習氏に翻弄された格好だ。
韓国はどうか。今回の米韓首脳会談で、韓国の影はまったく薄かった。
韓国はこれまで北朝鮮には「米国を対話に引き出す」と言い、米国にも「北朝鮮は対話の意思がある」と伝えて、メッセンジャーの役回りを演じてきた。だが、トランプ氏にとって、22日の米韓会談は米朝会談中止の可能性を表明する舞台として利用したにすぎない。
北朝鮮の外務第1次官が5月16日、米朝会談を「再考する」という談話を出して以来、韓国は今回の米韓首脳会談まで、何ら調停役を果たせていない。「首脳会談は99.9%開かれる」(韓国高官)などと、自分たちの願望を述べてきただけだ。
「ゴマすり国家」の本質
韓国の姿勢を一言で言えば、四方八方にその場限りの甘言を弄してきた「ゴマスリ国家」ではないか。そういう韓国の本質は、南北首脳会談(4月27日)に絡む在韓米軍の撤退問題でも鮮明になった。
文大統領の補佐官が外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿で「南北朝鮮の平和協定が結ばれたら、在韓米軍の存在を正当化するのは難しくなり、文政権は政治的ジレンマに陥る」(https://www.foreignaffairs.com/articles/north-korea/2018-04-30/real-path-peace-korean-peninsula)と指摘すると、文大統領は大慌てで否定に走ったのである。
先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55704)で指摘したように、そもそも韓国に米軍基地があるのは、韓国と北朝鮮がいまだ法的には戦争状態にあり、北朝鮮の侵攻を食い止める抑止力にするためだ。だから「平和協定が結ばれたら、在韓米軍の存在を正当化するのは難しくなる」という補佐官の指摘は正しい。
にもかかわらず、文氏は「在韓米軍は米韓同盟の問題であり、平和協定とは関係ない」と言って否定した。1953年10月に調印された米韓同盟は、同年7月に休戦した朝鮮戦争の結果なのだから、これは苦しい言い訳である。
ここに「ゴマスリ国家」の本質が出ている。北朝鮮にも中国にも米国にも、いい顔をしようとしているのだ。そんな韓国をトランプ政権が心底から信用するわけがない。信用しないが、だからといって、侮蔑もしない。あえて敵に回す必要はないからだ。
トランプ大統領は結局、米朝会談の中止を選んだ。こうなると、北朝鮮が何を言おうと、米国は再び、軍事圧力を強めるだろう。中国も慌てているに違いない。仲介者として割って入ろうにも、破談にされては首を突っ込む余地がなくなってしまった。
いずれにせよ、もはや金正恩氏に「敗北」以外の出口はない。日米はここで結束を一段と強めるべきだ。